2017年11月2日に書き換え更新しました。
以前、Web制作やサイトの更新業務を請けているWeb制作の個人会社があり、発注元の言いなりの値段でやっているようで、それがどうも割に合わないらしく、Web制作の見積りについて基礎的なところを教えて欲しいと頼まれました。
よくそれで事業を続けていけているなあと思いますが、そのときに、私のやり方でアドバイスしました。
その内容をWeb制作の見積もりを書く営業やプロデュースの見習いの人に向けて記事にします。実際は制作会社によってかなり差異があるので、あくまで私の1つの例として書いておきます。
どこの会社にも1ヶ月の1人当たりが売上げるべき数字があります。
当然、給料だけの話ではありません。
スタッフの給与、交通費、社会保険はもちろん、使っている高額なソフトにフォント費用、PCやサーバ、ネットワーク費、家賃、光熱費、経理や総務など管理部門の人件費などなど。
トータルで考えた制作者1人当たりが売上げるべき数字のことです。
目標だったり採算ラインだったり、明示されていないとしても、アバウトにでもあるはずです。
自宅で活動するフリーランスで言えば、必要経費+生活費だったりします。
月の稼動を(週休2日+祝日や有休消化で)平均20日として、例えばチーフクラスであれば月100万円(1日5万円)、一般的なWebデザイナーやコーダーであれば月80万円(1日4万円)と仮にしておきましょう。
差があるのは専門性やスキル(熟練度やセンス)、その人が使うソフトやハードの減価償却などによっても異なります。
ここではあくまで仮の目安で書きましたが、料金の高低は当然制作会社に拠ります。
ある企業のWebサイト制作の仕事があったとして、とりあえずPCスマホ対応のレスポンシブとして、撮影やコピーワーク、CMSなどの導入のない10ページとしましょう。
その制作業務を工数的に実行予算(下値)として見積もってみます。
課題を整理したり競合企業を確認したりもありますが、レスポンシブを想定し、その規定や構造設計等に4日を要するなら(1日5万円として×4日で)20万円。
デザイナーに4日で2案ラフを書いてもらったことにします。
その後1回修正して再提出に1日を要し、決まった案から第2階層のパターンデザインを4日間で作成してもらったとしたら、稼働は合計9日間として1日4万円で36万円。
コーダーさんにはレスポンシブの規定を検討してベースのスタイルシートを1日で作成してもらい、その後6日間で10ページを作成すると想定(1日4万円として×計7日)で28万円。
これでざっと合計84万円。
企画とデザイン、コーディングで合計で84万円程度は組織の維持(内部留保)に確保が必要で、これを下回る場合は営業利益から言って儲からない仕事と言えます。
もちろんスキルが非常に高い人であれば稼働日数は少ないでしょうが、日数を少なく計算する必要はありません。
あくまで人件費に対して「適正な採算レベル」とか「妥当性」をチェックする意味で計算します。
ただし上に書いた「工数での計算」で、単価を仕入れ値(4万円や5万円)を売値(5万円や6万円など)に変えただけのような見積もりは出しません。
以前にもこのブログで書きましたが、工数計算による見積りは、制作会社の業界では馴染まないのです。
企画・設計として、例えばアクセス解析や競合サイト等を調べて検討するのに1日、サイトコンセプトの企画に1日、レスポンシブを含めた画面設計に2日、などという行為のため、4日中1日過ぎたので25%の進捗、2日終ったから50%完了といかない世界です。
デザインもいきなりデザインワークをしているわけではありません。グランドデザインとしてコンセプトに基づいたデザインラフ案を複数案作成して基本デザインを作成し、クライアントのOKをもらってから実際のページ制作に入るのが一般的です。
(予算がない場合は1案で済ませることもあります)
3日と思ってたら5日かかったとか、その逆もあります。要は結果(成果物)であり掛った日数を根拠とした見積りも支払いも違和感があるのです。
では、基本的にどう書くか?
実際には「写真加工(最適化)」とか「作図」とか、もっと細かく書きますが、おおまかにはこんな感じでしょうか?
(写真のリースや撮影、コピーライティングもないとして、1つのラフな例です。)
項目 | 数量 | 単位 | 単価 | 金額 |
---|---|---|---|---|
企画・設計 | 1 | 式 | 300,000 | 300,000 |
グランド(基本)デザイン | 1 | 式 | 200,000 | 200,000 |
ページデザイン | 10 | P | 30,000 | 300,000 |
common.css(ベース)の作成 | 1 | 式 | 50,000 | 50,000 |
HTMLコーディング | 10 | P | 30,000 | 300,000 |
合計 | 1,150,000 |
総合計の115万円というのは、実際に稼動している制作スタッフの「裏の工数計算」(84万円)に31万円乗せた金額になるように書いています。
そのままでいけば見積もり上の粗利27%となります。
そうすると、もし値引き要請されても交渉は最低線を84万円として31万円の攻防をすることになります。
単価の高い安いは難易度にもよりますし、競合の有無や納期の少なさ、完全に単発なのか引き続きある件名なのか、はたまた定期ものなのかで柔軟に変化させます。
定期的であれば「裏の工数計算」に営業利益を乗せない金額でもやっていけるでしょうし、一発ものでは営業利益を適切な割合で乗せたいところです。、かつ納期も短ければコストもUPしますのでさらに見積もりはUPします。
ただし売値の書き方は変われども、「裏の工数計算」があれば、その案件が会社を維持していくのに適正なのか、割安・割高なのかは客観的に見えてきますし、その裏の工数計算との差分は営業的な値引き額の目安にもなります。
追伸
昔はあった「おたくの会社はデザイン1Pいくら?」という質問ですが、最近では聞かなくなりました。
上記の合計金額を10Pで割ると1Pあたり93,000円となりますが、それはあくまで総合計を総ページ数で割っただけのもの。聞いている方はWeb制作へのリテラシーが低く、単に業界がわからずに聞いているだけと推察できます。
「10Pが9Pに減ったので10%安くなるか?」というのも同じで、数が減って安くなるのはページデザインやHTMLコーディング部分だけのため、基本的に値引くとしたらそこだけってことになります。
こっちの過去記事もついでにどうぞ↓
Webの企画・制作に人月・工数計算は無理がある。